ナドレを晒してしまった。
それ以外にもうどうする事も出来なかった自分の不甲斐なさは、敵の読みを誤った戦術予報士へと向かい、
八つ当たりしてみた所で結局残るのは、彼女に対する罪悪感と自分に対する怒りのみだった。


いや、しかしいつまでも部屋に閉じこもっている訳にはいかない。
訓練でもしに行こうと部屋をでると、目の前に刹那が立っていた。
「…何をしている」
「入っても良いか、と聞こうとした所だ」
きっと、もう大分前からそこに立っていたのだろう。
声を掛けようか掛けまいか決心がつかずに立ち尽くしていた所ドアが開いて驚いた、といった所だろうと思う。
嬉しく思わない事もないが。
「…悪いが人と話す気分じゃない」
自分の弱った姿を見られるのは御免だった。
「そんなに落ち込む必要はない」
…落ち込む必要はない、だと?
戦いが終わってからもう大分経つ。みっともなくも八つ当たりしてしまってからずっと部屋に居たから、刹那には会っていない。


落ち込んでいるような姿を見せた覚えはないのに、こいつの目にはちゃんと見えているのか。


慰めようとしてくれているのはすぐにわかった。
「俺は、とんでもない失態をした。ナドレの姿を世界に晒すなど、あって良いことではない」
「それがどうした」
「…何?」
「ナドレにならなければお前は捕まっていた。捕虜として捕らえられ、例え逃げ出したとしても二度とここへは戻ってこないだろう。
…俺は、お前が居なくなるのは困る」


捕まっても、逃げ出す自信はあった。
けれどその後ここへ戻ってくることは出来なかったように思う。
そんな事をすればマイスターとしての恥。ふさわしくないものは、ガンダムに乗る資格はない。


それはつまり、二度とこいつに会えなくなると言うことで。



『あいつは、俺が居なくなる事が恐ろしくないのか』
『ここで俺が居なくなっても、こいつはきっと…』
そんな事を考えていた自分が馬鹿らしくなった。
なにも、自分ばかりではない。刹那もちゃんと俺の事を、
「…入っても良いか?」
「…あぁ」



「…戦いが終わってからずっと、そんな事を考えていた。お前にまだ何一つ伝えていないのに、会えなくなるのは嫌だった」
コーヒーでも淹れようかと準備している時に刹那が切り出した。
もしかしたら、こんな風に2人で話すのは初めてかもしれない。
「今度、ロックオンと地球に降りる。もしそれが一段落ついて、休暇がもらえたら…」
「…実は、あまり地球は好きじゃない」
今まで、言葉に出来ないことが多すぎた。これからはもっと自分の事を知ってほしい。
そう言うと、刹那は珍しく微笑んで、言った。
「それなら俺も言おう。実は、コーヒーは飲めないんだ」
あぁ、それであの時ミルクを。
今更ながら合点がいって、意外に子供らしい一面に自然と笑みがこぼれた。