その姿を見つけたのは食堂での事だった。
きっかけは覚えて無くとも先程無視された事を忘れる訳がなく。
一瞬合った視線をすぐ逸らして食事の乗ったプレートを持って席に着いた。
一席の空白。わざとらしく空けたその距離が、要するに自分たちの距離なのだと思う。
近くも遠くもなく、ただ不自然なのだ。


不自然、か…


隣を見ると、まるで自分の他に誰も居ないような顔をしてフォークを動かす姿が目に入った。
恐らくここで俺が居なくなっても、こいつはきっとなんとも思わない。
何故自分ばかりこんな思いを、と思って初めて気持ちの重さに気づいた。
喧嘩の原因もよくわからず、それでも終わりたくないと願う。


俺はきっと、自分で思っている以上に刹那の事が…


「おい」
不意に話しかけられた。何日ぶりかに聞く、自分へと向けられた声。
「…なんだ」
「食べないのか?」
言われて、自分のフォークが止まっている事に気づく。


…ちゃんと、見られていたのか。


「…食べる」
「…なぁ、」
「なんだ」
「…もし、今度地球に下りることがあったらどこかー」
「あーっ!やっとご飯だぁー!」
…誰が来たかは声でわかった。続くかと思われた言葉はその声にかき消され、
刹那はクリスティナの姿を確認すると、また何事も無かったかのように食事を再開した。


『もし、今度地球に下りることがあったらどこかー』


簡単に予想のつく続きに、心なしか顔が熱くなった。
それに気づいてしまうともう刹那の顔も、クリスティナの顔も見ることが出来ず、俺はただ俯いて黙々とフォークを動かしたのだった。