授業が終わって携帯を見て、ぎょっとした。
メールが3件。まぁこれは良い。問題は着信が12件。
90分の間によくもこれだけ掛けたものだ。
全て同じ人物からであるのに溜息をつき、ティエリアは発信ボタンを押した。




本日はクリスマスイヴである。
本来であれば学校は冬休みに入っているのだが、ティエリアはこの休み期間中に開講される講義に出席していた。
卒業に必要な単位ではなく、10数名しか受講していない授業だ。
だが、ティエリアは大学に行ったら、どうしても欲しい資格があった。
その資格を得るためにはもちろん必要な単位があり、その中には通常の時間割では収まらず、休み期間中にのみ開講されるものがあった。この授業はその中の一つである。
4日ほど出席し、簡単なテストを受ければ単位がもらえる。比較的お手軽なのだが、やはり休みの日に学校に行くのは気が重い。
それに冬休みになったら実家に帰ろうと思っていたのに、授業の所為で帰るのが少し先延ばしになってしまった。
やはり帰るのは授業が終わってから、28日頃になるだろう、という旨のメールをロックオンにしたのが今朝のことである。
しばらく携帯は鳴らなかったから、それで了解してくれたものと思っていたのだが、そうもいかなかったようだ。



着信は全て、ロックオンからだった。



『…もしもし』
電話を掛けるとやたら暗く重い声だった。
聞けば彼は昨日から夜勤で、帰ってきたのは昼ごろ。電源を切っていた携帯を見たらティエリアからのメールが来ていて、慌てて電話をかけたのだそうだ。
だからって12回も電話を掛ける必要がどこにあるのか。5年経ってもたまにこの男はわからない。
大学からの短い帰り道でティエリアがまた小さくため息を吐いたころ、実は刹那も帰ってこないんだと今度は泣きそうな声に変った。
「刹那も?」
『今年は帰って来ずにあの男と過ごすんだってよー。酷いだろ?酷いよなぁ?』
「あぁ…そうなんですか」
そういえば彼は今年の秋から家を出ていた。そしてティエリアも一度会ったことのあるあの男…グラハムと一緒に住んでいるらしい。
ロックオンとアレルヤも一応納得してさせている同棲だが、やはり長期の休みの間くらいは帰ってきてほしいだろう。
『まぁお前と一緒で28日くらいには帰ってくるらしいんだけどな』
「じゃあ別に良いじゃないですか。クリスマスくらいあの男と過ごさせても」
正直、刹那のことはあんまり心配していない。もう高校生なのだし、グラハムのことは気に入らないが一応仕事は出来るみたいだし、とティエリアなりに割り切った考えを持っていた。
『でもお前とはクリスマス一緒に過ごせると思ってたんだよ…』
「はぁ……」
まったく、いい加減子離れしてほしいものだ。というか彼らにとっては初めて2人きりのクリスマスではないのだろうか?
せっかくなのだからそちらを満喫してほしい、とは思うが今の彼にそれを言っても無駄なのだろう。言うなら、もう少し落ち着いているであろうアレルヤの方がいい。
とりあえず今は彼の小言というか泣きごとというか…を、聞いて、宥めるしかない。
『もしかして、ティエリアも彼女できたのか?授業とか言って、実はデートじゃないよな?』
「………」
『ティエリア?』
「……彼女なんていませんよ」
『ほんとにかぁ?彼女できたらちゃんと紹介してくれよ』
「…わかりましたから、少し寝たらどうですか?夜勤明けなんでしょう」
そう言うと、もう満足なのか「そうすっかな」と言って電話を切った。もちろん、最後に年末は絶対帰ってこいと付け加えて。
携帯をしまいながらたどり着いた家のドアを開けるのに少し戸惑った。
嘘はついていない。
けれど、あの沈黙は少しまずかったかもしれない。
このドアのカギが掛っていない理由。知ったらロックオンは怒るだろうか?
(きっと怒るんだろうな…)
彼女できたらちゃんと紹介してくれよ、と、最近の悩みを見事に言い当てた彼に苦笑しながら思い切ってドアを開けた。
「…ただいま」
「おーおかえり」
最近の悩み。
間髪入れずに返事をしたこの男を目の前にしながら、ティエリアは頭を抱え込みたくなった。




いつ、紹介すれば良いんだ。