「…欲しいもの?」
「そ♪」
時は師走。年末に差し迫っ たこの時期、ロックオンはこの部屋の主である少年の答えを待っていた。勉強用の椅子がくるりと回転するのにあわせて菫色の髪が流れ、振り返る幼いながらも 秀麗な顔には困惑が浮かんでいたが、何かに気がついたように赤い瞳は壁のカレンダーに留まった。
「あぁ…クリスマスプレゼントです か」
「お前らがここに来てから初めてのクリスマスだしな。ツリー飾ってーなんかうまいもん食ってーケーキ食ってーぱぁっとやろうぜ! ぱぁっと!」
成人男子とは思えないはしゃぎっぷりのオーバーアクションでぱぁっとの部分を表わすロックオンに対して、中学生とは思え ない落ち着きを持って
「特に必要なものはありません」
自分たちの後見人になってくれた男のテンションを下降させ るティエリア。
「お前…遠慮すんなよ?」
大きく広げていた両手を山から出てきた熊のようにだらりと降ろして、首 をかしげながら少年をうかがう眼には気づかいの色が浮かんではいるのだが、いかんせん、ポーズがよろしくない。しっかり立て、といつも姿勢が良いティエリ アは言いたくなった。
「遠慮など…俺はいいので、刹那になにかやってください」
「もちろん刹那にもやるさ。俺 は、おまえらに、プレゼントやりたいの!」
「ですが…」
ロックオンの家に本格的に世話になり始めてまだほんの少 ししかたっていない。この家もこの部屋も整えてくれたのは全て、ロックオンとアレルヤだ。もともと子供など居なかったのに、自分たちのためだけにここまで 家具や衣服などをそろえてくれた記憶も新しいうちに、その上クリスマスプレゼントまで…とティエリアが尻込みしてしまうのも無理はない。
「あ のな、俺が子供の頃は、両親と兄弟でそりゃーもー派手にクリスマスを満喫したもんだよ」
「なるほど」
ロックオン のお祭り好きは家系だったか、ティエリアはと納得した。
「チキンもケーキもツリーも楽しみだったけど、やっぱり一番わくわくしたのは 25日の朝に枕もとに置いてあったプレゼントを開ける瞬間だな」
懐かしい記憶を思い出してか、やさしい緑の瞳が細められる。
「俺 はおまえらにもそのわくわくを味わってほしいんだよ。だから、これは俺のわがままってわけ」
「そう言われましても、」
養 護施設に居た頃は個別に欲しい物など聞いてはもらえなかった。全員一律にノートなり鉛筆なりをサンタに扮した職員の手によって与えられるだけで、ラッピン グすらされていない年も少なくはなかった。自分が求めるものをもらえた記憶など、両親が健在だった幼い時のものがおぼろげに残っているだけで、それもずい ぶんと前のことだ。今年の参考にはなりそうにない。なにしろ、アニメの変身セットやらロボット人形が手に入って喜ぶ年齢はとうに過ぎてしまったのだから。 大好きだったあの戦隊モノの変身ベルトはいったいどこに行ってしまったのだろうか。
「やはり、俺には必要ありません。刹那に…」
「ん じゃあ、ブランドもんの高っっかいコートでも買うかな」
「え。ちょ!」
それではなるべく負担になりたくないとい うティエリアの思いに反している。
「お前がなんにも考えつかなかったらそっちの方向で決めちまうぞ」
この男はな にがなんでも自分にプレゼントを贈るつもりらしい。それならば、何かしらの無難な物を一つ頼んだ方が出費がかさまずにすむようだ。彼は最初からそこまで見 越していたのだろう。
策略に乗ってしまって悔しいはずなのに、
「…………善処します」
浮か んだのは苦笑とは言いにくい笑みだった。




さぁ、 考えよう。
クリスマスはすぐそこだ!