この男は不可解だ。

 



ガキの喧嘩に介入して見ず知らずの俺を助けたこと。助けた後の帰り道も心配したこと。

その後も会う度に家まで送ってくれること。

相手が16の男で無愛想なのに、それを続けること。

たいてい優しく微笑んでいること。

ほとんど相槌しか打たない俺に飽きずに話し掛けること。

そして、やっぱり、1番分からないのは

俺なんかにかまうこと。

本当に、この、グラハム・エーカーという男は不可解だ。

 



くうぅぅっ。

…腹の虫が鳴った。

早弁も昼飯も食べたのに、まだ不満が有るのか、俺の腹は!

自分の胃袋も不可解だ。

こんなに食べているのに俺の体は縦に伸びない。ならば横に伸びる、ということもないので食べた物はいったいどこに向かっているのか。

謎だ。

「お腹が減っているのかい?」

腹を押さえ、頭上からの笑みを含んだ声にうなずいた。

仰ぎ見ると金の髪をした男が綺麗に笑っていた。その笑顔。

何故俺にこんな顔を見せる?

「あぁ。そうだ、ちょっと待っていてくれ」

と言うとすぐそこのコンビニに入って行った。

…不可解だ。

薄汚れたガードレールに腰かける。

あの人は社会人だ。忙しいだろうに。

……やはり、グラハムは俺には難解だ。

 



「はい。刹那」

声と共に差し出された白い手が持っていたのはそれよりもっと白い、ぶたまん。

驚いて見上げると柔らかく微笑んだグラハムがいた。「お食べ。」

「…いいのか?」

美味しそうな香が食欲をそそる。

グラハムがうなずくのを確認してから受け取り、そのまま噛り付く。

ほかほかでふわふわな皮と、ジューシーであつあつな具。腹の主張がおさまった。

「おいしいかい?」

こくん、とうなずいてから気付いた。

「…お金…」

「いいよ。私のおごりだ」財布を出そうとする俺を制するグラハム。

「でも、」

「ちょうど私も食べたかったんだ。君のはついで」

瞬き三回分悩んで。

「…ありがとう」

「どう致しまして。」

礼を言う俺に笑うグラハム。

この人の笑顔は本当に綺麗だ。初めて会ったあの時もこんな笑顔だった。

その顔を見て、ふ、と思った。

 



何故俺はこの男と三日に一度は一緒に帰っているのだろう。

断ろうと思えばいつでもできるのに。

何故俺はこの男と並んでぶたまんを食べているのだろう。

数少ない友人ともしたことが無いのに。

 



…不可解だ。