靴 が片方、転がっていた。

ただいまぁ〜と帰宅したロックオンはドアを開いた状態ではて、と首をかしげた。
玄 関の隅にきちんとそろえて置いてある一揃いの靴はティエリアのもの。そして、件の、その底面を曝しているのは刹那のものだ。普段は礼儀正しく、とまではい かないものの靴を片方だけ乱雑に転がすようなことを刹那がするだろうか。
「…あ、あった」
しかも、片割れは 玄関からのびる廊下の中ほどあたりに所在無げに横たわっていた。私はここに居るべきではないのです、と言っているような気がするのはロックオンのここ数日 に及ぶハードワークのせいだろう。いったいどんな脱ぎ方をすれば二人をここまで離れ離れにできるのか。さらに、制服の上着、学校指定の赤いネクタイ、白い ワイシャツがまるで脱ぎ散らかしながら歩いていったように点々と放置されていた。全て刹那の物である。
いやはや。疑問はつきない。
「せ つなぁー居るのか?」
どこかおぼつかない足取りながら謎の抜け殻をたどり、リビングダイニングを抜け、左手奥にある刹那の部屋へ向か おうとしていた途中でロックオンは足を止めた。
微かな水音と共に、密やかな話し声が聞こえたのだ。
『… あ、ッいた――』
『し、我慢しろ刹那』
『やめ、て…ティエリ…あ!』
『大丈夫 だ。すぐ痛くなくなるから…』
『……ん、くっ』
『ゆっくり息をしろ…そう…いい子だ』
「お、ぉぉぉ お父さんそんなふしだらなまね許しませんよぉっ!!!!?」
ガッターーンッ、とロックオンは盛大に。それはもう盛大に風呂場の戸 を開けた。
「―――は?」
そこに居たのは、嫌がる刹那と、彼の手首を掴んで腕を洗うティエリアだった。



「また喧嘩してきた刹那の怪我を洗っていただけですよ。雑菌が入った ら大変ですからね。刹那は痛がって逃げてばかりだから俺が洗ってやっていたんです。貴方の言うふしだらなまねなんて、全く、これっぽっちも、1ミクロンも 起こり得ることは有りませんでした。それなのに貴方ときたらいったい何を勘違いなさったのかこの場で説明していただきましょうか。さあどうぞ。あぁ、足が しびれましたか。そうですか。さぁどうぞ。説明してください。」
「す、すいませんでした」
息子に向かっ て土下座で謝る父。
無表情で淡々とした口調が余計怖かった、と後にロックオンはアレルヤに語った。