アレルヤにとって、その半年間は今までに経験したどんな時間よりもあっという間に過ぎていった。
学校の授業とアルバイト。忙しくて目が回るようだった。家には寝に帰るだけである。
けれど少しでも現場を知っていた方がいい。免許はなく大したことはできないが、少しでも経験をつもうと思っていた、丁度その時。
「なぁ、ちょっと相談があるんだけど」
見知らぬ男に声をかけられた。
「え?相談された?」
本部の食堂でアレルヤの向かいに座って驚いているのはクリスティナ。
アレルヤと同じ看護学校の生徒で、高校を出た後看護学校に入学した。
年齢的には3つ違うが、アルバイトを一緒にしているということからか、年齢関係なく友達として付き合っている。
うん、と返事をしながら彼…ロックオン・ストラトスが居た間は口に運べなかったパンに手を伸ばした。
先ほどとは打って変わって、昼食時の騒がしさが過ぎ去った食堂には、殆ど誰もいない。
「ロックオン・ストラトス…って、あぁ、わかった。背の高い人でしょ。3階の病棟に居る」
「…よく知ってるね」
「まぁね。で、なんでそんな人がアレルヤに?何を相談されたの?」
「…子供への接し方について」
「は?」
整った顔で、肩にかかったふわりとした髪が印象的だった。
看護師には必要である、接しやすさという点では多分満点だろうと思う。
でなければ、まず初対面の人間に、あんな相談はできない。
「…あの…」
もしかして、人違いをしているのではないかと躊躇いがちにロックオンを見上げたアレルヤを見て、彼は「悪い悪い」と、苦笑した。
「俺の名前はロックオン・ストラトスだ。お前は?」
「あ、アレルヤ・ハプティズムです」
「アレルヤ…アレルヤ・ハプティズム…あぁ、お前、そこの看護学校の生徒か」
「はい、そうですけど…」
人違いではなかったのか。
一体何を相談されるのか全く想像がつかない。
すっかり恐縮してしまってるアレルヤを後目に、ロックオンは勝手にその相談とやらを始めた。
「お前くらいの年齢の子供って、何考えてるんだと思う?」
「…は…?」
「いや、実は、ちょっとした事情で子供を2人預かってるんだよ。でもなんかどうも扱いづらいんだよなぁ…」
年も近いみたいだし、どうしたら良いか教えてくれないか、ということらしい。
それを聞いたとき、戸惑いつつもアレルヤがまず思ったのは、忙しいだろうに大変だなぁという感心だった。
アレルヤはそうでもなかったが、同じ施設の中にはいわゆる「反抗期」というのが激しく、連絡一つせずしばらく帰ってこない子供も居た。
彼が預かっている子供はその手のタイプなのだろうか。
ならば頭ごなしに怒鳴りつけてもきっと無駄である。
本当に小さな決まり事を作ったり、それも無理なら時には強硬手段に出ることも必要なわけで…
そこまで考えた所で、結局アレルヤは実際にどんな子か見なければ分からないという月並みの答えしか出せなかった。
すると彼は「じゃあ仕事終わったら来てくれ」という予想外の返答をしたのだ。
そんなに切羽詰まった状況なのか?
預かっているだけなら、そこまで一生懸命になる必要があるのだろうか?
疑問は尽きないばかりである。
「で…行くの?その、ロックオン・ストラトスの家に」
「うん…なんか、そういう事になっちゃったみたい…だね」
「…大丈夫なの?」
「…うーん…」
本当に、信用して良いのだろうか。
何か悪いことをするような人には見えなかったけれど。
結局、ちゃんと信用できないまま、アレルヤはその日仕事が終わった後自分を待ちかまえていた彼の車に乗った。
それが、全てのはじまり。
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