突
然訪れた彼は、ひどく酔っている様子だった。 一つのミッションを終えて、明日はオフだと言われた、トレミーの中。 シャ ワーを浴びて、さぁこれからどうしようかと思っていた時に呼び出しが鳴り、外に立っていたのはティエリアだった。 頬が火照って心なし か目尻が赤い。 明日は休みだし、勿論酒を飲んでいてもおかしくは無いのだが、普段決して飲まない彼にしては珍しい。というか、酒が飲 める歳だと言うことも知らなかった。 もしかして、未成年の飲酒か? どちらにせよ、不思議に思ったのは、彼が酒を 飲んで楽しんでいた雰囲気ではなかったことだ。 何かから逃避したいが為に酒を煽った、そんな雰囲気。 「…どうし た?何かあったのか?」 声を掛けた途端にその目がゆらゆらと揺らいだ、かと思えば今度はそこからぼろぼろと涙が零れ落ちた。 「お いおい、どうしたんだよティエリア」 状況が全く理解できず、ロックオンは戸惑った。 酔うと泣くタイプなのか?そ の前に、どうしてここに来たんだ。 とにかく入れと言うと、ふらつきながら一歩を踏み出した。 足元も覚束ない程飲 むなんて、益々珍しい。 椅子まで連れていこうとしたのに、ドアが閉まるとそこにしゃがみこんでしまう。 「ティエ リア?」 本当にどうしたんだろう。 顔を覗き込むと涙目のままティエリアはゆっくりとこちらを見た。 「ー あなたなんか、嫌いだ」 キッと睨まながら言われて思わずたじろぐ。なんで凄まれてるんだろう。 酔っ払って目をう るうるさせながらそんなことを言われても信憑性が無い。 大体嫌いならなんでわざわざそれを言いに部屋に来たのか。 続 いた言葉に目を丸くする。 「どうして優しくするんですか」 「…は?」 意味がわからない。 「嫌い」と「優しい」になんの関係があるんだ。 「私に、優しくしないでください。でないと、私は…」 「おい… ちょっと待て、ティエリア」 合わせた目に普通じゃない空気を感じて、ロックオンはひく、と喉をひきつらせた。 … なんだか、嫌な予感がする。 頼むから続きを言わないでくれと願うのも虚しく、ロックオンの制止を無視したティエリアは口を開いた。 「あ なたが好きです」 あぁ、だから待てって言ったのに。 「…ちょっと、酔いすぎじゃないか?」 「酔っ てなきゃ言えません」 即答された言葉にまたもや「う」と詰まる。 冗談だろと笑い飛ばしても良かったのに、真剣な 顔のティエリアはどう考えても冗談には見えないし、そう言える雰囲気でもなかった。 嘘だと言わせたくて問いかけたことが裏目に出たの だ。 じっと見つめられてわざとらしいとは思ったが目を剃らす。 視界の端で、ティエリアが動いたのが分かった。 え、 と思うより先に強引に唇を合わせられる。 ティエリアは酔っているには間違いないが、それなりに意識はしっかりしている。 ま ずいな、と思った。何がまずいのか、そんなことは考えたくもない。 触れるだけのそれは一瞬で離れた。 「今晩、一 緒に居てくれませんか」 …それって、どういう意味だ。 声も出ない。次にティエリアがどんな行動をするのか、全く 予想ができないからだ。 「一晩くらいならバレませんよ。…アレルヤ・ハプティズムにも」 「……」 知っ てて、どうして。 あの優しげな笑みが頭を掠める。 「ロックオン」 駄目だ。彼を、アレルヤを 裏切るなんて、そんなこと… 「抱いてください」 け れど俺は、ティエリアを突き飛ばすことも出来ないのだ。
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