影像紺迷 「は、ぁ…っ」 夢 想する。この指は彼の指だ。白く長く繊細な彼の指が緩やかに俺を絡め取る。 「ぁ、ふぅ、」 こうやって一人で熱を 吐き出すことを覚えたのはロックオンが俺を置いて逝ってしまってからだ。彼と深い仲になる前まではこうゆう行為自体よく知らなかった。時間と体力があれば 施されていた行いにいつの間にか慣れてしまっていた体は、想い人がいないからと言って疼くのを止めてはくれなかった。それに初めて気付いた夜には自らのあ さましさに一晩中泣いた。ロックオンがいないのに。けれど、どうしても熱は冷めないのだ。…世界中を旅していた4年の間に、行きずりの相手と一夜を共にす ることを知った。きっかけは、忘れた。確か、相手か俺のどちらかが酒に酔っていたのか、それとも二人ともか。それからは、体を持て余す夜には適当に相手を 探すようになった。何故か相手には困ったことは無かった。一度、聞いてみたことが有る。俺と寝た理由を。あれは…深い緑の瞳が印象的な男だった。寂しそう だったから、と言われ苦笑した。なるほど。それと、迷子みてぇだった、とも言われた。その男とは次の日も寝た。朝、相手が起きる前に部屋を出た。 「… ん、ぅあ」 数えたわけではないが、そうやって名も知らない人と過ごした夜よりも、こうやって一人で吐き出す夜の方が多いだろう。彼を 思い浮かべながら。いや、誰かとの行為の最中でさえ、彼を思い出している。一晩だけの相手に彼と似た部分を求めていることはかなり前に分かっていた。ほん の一部でも似ていると感じればそれが誰でも問題はない自分はとうの昔に汚れきっている。彼しか知らない俺は彼と同時に消えた。ロックオンはこんな俺を見て 嫌悪するだろう。それとも、悲しむか。 「ろっ、…ん」 優しく甘く、からかいと親愛を含めて俺の名を呼ぶ(戸惑い と切なさをこめて) 少し乱暴に髪を撫でられて、壊れ物のように体を探られる(あの手も同じ温度なのか) 吐息を奪 われて、心も奪われた(いっそ、奪って欲しい) 盗ったものを返すこと無くあいつは逝ってしまった(返してくれていたら、そうしたら、 俺 はあの人と―――― ぴたり、と動きを止めて瞬き をする。 何だ、今のは。 俺は今、何を考えていた? 「――っ!あ、あ、」 な んてことだ。 彼が逝ったのは25歳だ。思い浮かべた彼はあきらかにそれより年上の姿をしている。そう、それは、今まさにこの艦で息を している彼と同じ容姿を持つ人物と同じ。 髪はこの長さだったか?もう少し短かった気がする。 声はどう響いた? もっと柔らかかった気がする。 瞳に浮かぶ感情は?彼は、いつも、飄々としていて――― 塗 り替わっている。すり替わっている。違う。これはロックオンではない。これはあの人だ。新しいガンダムマイスターと紹介されたロックオンの弟の、あの人。 ま さか、そんな、 そんなつもりじゃなかったのに 俺は、そんなつもりであの男がロックオンの立ち位置を埋めることを 受け入れたのではない。ロックオンを忘れたくないから、俺の中の『ロックオン』を確立させるために。そのためだったはずなのに。 なん て、なんてずるい。 そう、あの人はずるいのだ。 同じ姿をしているなんてずるい。 血が繋がっ ているなんてずるい。 双子なんて、もっとずるい! 「…ロックオン…っ」 ロックオンの面影が あの人のせいで薄れているのに、俺はあの人を恨むことができないではないか。 分かっているのだ。あの人は何も悪くない。 勝 手にロックオンを求めて、勝手にロックオンをかすれさせて、勝手に傷付いているのは、俺だ。 悪いのは、汚れているのは、俺だ 「―― ごめんな、さい」 貴方が好きです。
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