偶像紅福












「新 しいガンダムマイスターを紹介するわ」
言葉と同時に示された先に、彼はいた。

最初の感 情は、驚愕。次は困惑。そして、
その次は、




視 覚はいい。人間の最も発達した五感だから。記憶から取り出して何度も何度も、何度も何度も輪郭をなぞることで上書きし、瞼を閉じれば会える。…少なくと も、その片鱗に。
けれど、声を香りを触を、手放してしまう自分がいる。日に日に、あの時間に合わなかったこの役立たずの指から、 こぼれおちていく。かすれていく。みつからない。どこにある?わすれていく!
生々しく、全てを留めておくことはできないのか。



目 の前の存在、『彼』と酷似したその姿。
抱きしめると、相手はぎこちなくもやわらかく返してくれた。ふわり、と包まれた匂いに胸が しめつけられた。
「刹那、」
音に乗せられた感情を無視して、その響きに目を閉じる。



心 がふるえた。



この声を、この香りを、この腕を、この背を、この体温 を、俺の全てが求めていたのだ。
これが『ロックオン・ストラトス』。求めていた、求めている、もの。


こ こに『彼』がいる!


どれほど時間がたっただろう。
そっと、離れる。
相 手の胸を軽く突き、管理された微重力の浮力にまかせてその距離を開く。
「ありがとう」
もう、ブレない。
彼は彼であって、『ロックオン・ストラトス』は『ロックオン・ストラトス』だ。
どんなに似通った特徴を持っ ていても、例え同じコードネームを与えられても、彼と『彼』は別人。けれど、



最 初は驚愕。次は困惑。その次は、歓喜。そして――


彼がいるかぎり俺の中の『彼』がうすれて いくことは留められるだろう。




――感謝。