下は泥とて穢れなき花よ。 ぽ かり、と瞼が開き茫洋とした瞳が現れた。 やっと手に入れた存在の寝顔を飽きること無く眺め始めてずいぶんと時間が経ていた。すでに日 は高く昇っている。 途中で幾度か席を外したが、その間もこんこんと眠り続けていた少年の覚醒に思わず笑みが浮かぶ。 焦 点を定めずに天井をさまよう視線は眠りの世界から抜けきってはいないようだったが 「目が覚めたのかな」 横から一 声かければすぐさま現へ引き戻され、同時に光がともる。 まずは大きな瞳がベッドに腰かける私の姿を素早くとらえ、それに合わせるよう に幼い顔がゆっくりこちらを向いた。 眼差しに一瞬よぎった絶望は眠りにつく前の出来事を夢にしたかったのだろう。誰だって自分が凌辱 される、などとゆう現実ならば目を背けたくもなる。 私にとっては夢なんかで終わられたら困るのだが。もう一度この子を探し出すところ から始めなければならないではないか。だがそれは、再び真っ白な少年を汚す愉悦を味わえるとゆう意味なのだから、悪くはないのかもしれない。…まぁ、全て は仮定の話だ。 夢の世界への恋情を瞬き一つでかき消して、私への憎悪でいっぱいになった彼は、私の部屋の寝台に横たわっている。それ が、まぎれもない現実なのだから。 「――きさ、…ッ」 言いたかったのであろう言葉は昨晩酷使された喉に絡みつ き、げほげほと少年は咳こんだ。その振動が痛みを訴える体に響いて息が詰まり、苦しい中で大きく息をしようとして気管が引きつれ、それがまた彼の呼吸を妨 げさらなる咳を誘発する、とゆう悪循環が続く。 その様は、羽がちぎれて地に落ちた蝶が大空へ戻ろうともがくようで、観察していて面白 い。 ひとしきり咳をし続けた後、眠りによって回復しかけていたはずのなけなしの体力すらも使い果たした少年はぐったりとベッドに横た わった。 覇気のない様子も、青ざめて瞼を閉じた顔も彼には似合わないし、つまらない。 用意していたペットボトル をあおり、一口は自分のために飲み下し、もう一口は口中に含んだ。小さい顎を持ち、少年の顔をこちらへ捻じ曲げ、無理やり唇をあわせた。 抵 抗する体力などとっくに無い彼はただ受け入れるしかないらしく、ビクリと一度体を震わせただけで思っていたよりも短時間で少年の喉が上下した。 「…… 何をのませ、」 「ただの水だ。喉が渇いているのかと思ってな」 怒りのためか頬に赤みが戻ってきていた。 君 にはその眼が一番似合うよ。 「俺に触れるな」 不快げな表情ながらも、起き上がることどころか腕を上げることすら ままならいほどに彼は消耗しきっていた。それでも瞳の光は失われずにいる。 やはり、先ほどの仮定は無しだな。再び汚す楽しみよりも、 今、目の前でどこまでも真っ直ぐで綺麗な彼がいい。ただ白いだけの彼より、辱めたはずなのに汚れない彼の方が美しい。 ぐしゃぐしゃに 踏みにじりたくなる。 ふ、と息を吐き出して再発しかけた欲求をやりすごした。 流石にこの状態のこの子を抱くのは いただけない。完全に壊れられて使い物にならなくなっては元も子もないしな。 「水はここに置いておこう。好きに飲むがいい」 「さ わるな」 ベッドサイドの引き出しにミネラルウォーターを置く。 「ずいぶんと長い間寝ていたな…疲れているのか」 「………… てやる、」 鏡の前でネクタイを締める。 「あぁ、名乗るのが遅くなった。私はグラハム・エーカーとゆう」 「… 殺してやる」 上着を羽織る。 「私はこれから仕事でね、ゆっくり休みたまえ」 「殺してやる」 鞄 を手に取り中身を確認する。 「おそらく今日は遅くなるだろう」 「殺してやる」 ドアノブに手 をかける。 「それでは、」 開く。 「殺す」 がちゃん、と施錠の音が残っ た。
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