待ち合わせ時間、5分前。そろそろかな?辺りを見回すと、群集の中の小柄な人物に目が止まった。

全身を黒でまとめていて、その少女の雰囲気にとても似合っている。短いスカートと長いソックスの間の素肌が眩しい。

ああゆうのがゴスロリって言うんだっけ

ぼんやりと眺める。…あれ?いや、まさか、でも…



「…グラハム」

少女が―いや、少年が―自分の名をよんだ。

「…刹那……どうしたんだ…その格好…」

呆然と言うと、刹那は慌てて

「し、知り合いに着せられて、あの、もう、時間も無かったから、その…」

不安げに上目使いで

「…変か?」

と聞いてきた。

「変じゃないとも!全然変じゃない!似合ってる…可愛いよ。刹那」

「…そうか」

彼(今はこの代名詞に違和感がある)は安心したような、不本意なような、嬉しいような、恥ずかしいような複雑な顔をした。



「…と、とりあえず、行こうか」

「…ああ」

予約しておいたレストランに向かって歩き出す。



隣を横目に見る。…なぜこんなに似合っているのか…刹那だと分かっていても、女の子にしか見えない。

…可愛い…ああ、生きててよかった。



顔も知らない刹那の『知り合い』とやらに感謝していると、すれ違う男達の多くがこちらを見ているのに気がついた。



…今度はじっくりと観察する。

「…なんだ?」

視線に気付いた刹那が言う。



確かに、この年頃の女の子にしては低い声だが、こうして、声を聞いても…少女にしか見えない。それも、頭に『美』が付く。



刹那の手を取って、いつの間にか止まっていた足を再び前に出す。…とりあえず、これでウジ虫どもの牽制には成るだろう。



繋いだ手を少し握り返されて、隣を見ると、頬に朱がさした刹那は、今まで見たことがない程の、満面の笑顔をしていた。


…人目が無かったら襲い掛かるところだった…