それは、ある休日の朝。刹那が宿泊先である王留美邸の食堂にやってくると、

そこにはロックオンとクリスがいて、ロックオンのするアレルヤの話ー要するに惚気だーで盛り上がっていた。

公私をきちんと使い分けているロックオンは仕事をしている時はそんな話は絶対にしない。

だからこそ話し出すとなかなか止まないのだろう。

クリスも嫌そうな顔一つせず、(あるいは本当に楽しんで居るのかもしれない)彼の話に耳を傾けていた。

積極的に聞きたいとは勿論思わないが別段避ける理由もない。刹那はロックオンの隣に腰を下ろした。

途端に、話をふられる。

「なぁ刹那、お前はあの人と手繋いでデートしたいとか思わないのか?」

「…別に。出来ない事は要求しない」

夜だったとしても、周りの目は気になるから。

刹那の言いたい事を読み取ったロックオンは「そうだよなぁ」と苦笑した。

しかしクリスは。

何かに気づいた様子で刹那を穴が空くほど見つめると、どこか楽しそうな笑顔で言った。



「刹那なら出来るんじゃない?」




ーそこから、どういう経過でこうなったのか、刹那にはさっぱりわからなかった。

引っ張られるようにクリスの部屋へと連れて行かれ、「フェルトにって買ってきたのに全然着てくれなくて」

と目の前に何かひらひらとした物を見せられた時、刹那は血の気が引いた。

まさか。いや、まさか。

混乱しつつも「着てみて」と言うクリスに逆らうことは出来なかった。

こういう時の女の人は、相手に対して有無を言わせぬ力を持つのだ。

「あとこれと、これ……うわぁ、やっぱり刹那似合う〜!」

誉められてもちっとも嬉しくない。黒地に様々な色が散り、端の方には子供の落書きの様なドクロが描かれているダメージシャツ。

これはまだ良い。下は3段のレースのついた黒いスカート。丈は恐ろしく短い。

ソックスにも、ゴムの所に可愛らしいレースがついていた。

「動かないでね」と言われヘアーメイクまでされれば、それはもう完全に「女の子」だ。

「どう?なかなか可愛いでしょ?」

そう言われて全身鏡に映し出された自分の姿を見たとき、刹那は今度は怒りで真っ赤になった。すぐに脱ぎ捨ててやろうと思った。

それをしなかったのは、後ろで嬉しそうなクリスの声を聞いたからだ。



「これで昼間でも街中で堂々と手繋げるよ、刹那」




待ち合わせ場所に向かう刹那を見送ったのはティエリアを除く全員だった。

「ぱっと見女の子にしか見えない」という上々の反応は刹那にとっては不本意極まりない。

それでもそのままの格好で出掛けたのは、手を繋いで歩く事への憧れ故か。

自分の姿を見て驚くグラハムの姿を想像して、まぁこれも悪くないか、と刹那は小さく呟いた。


 

 

おまけのアレロク。残ったCBメンバーたち。

 

 

 


「刹那可愛かったなぁ〜俺もしようかなぁ」

ロックオンの冗談に周りは固まった。

確かに綺麗な顔はしているが、それとこれとは話が別だ。

あの体格で、あんな格好をすれば、もう笑いのネタにしかならない。

呆然と立ち尽くす他のメンバーは、部屋に戻るロックオンを慌てて追いかけたアレルヤの声にほっと胸をなでおろした。

「やめてください!刹那だから似合うんです!」

そして次の一言にロックオンも含め全員が赤面した。

「僕はそのままのあなたが好きです!」

「おま…っ!冗談だから!そういうことデカい声で言うな!」