朝、目が覚めると目の前にグラハムの顔があった。

驚くほど整った顔。

まだ、こんな関係になるなんて夢にも思わなかった時から、本当に綺麗だと思っていた。

どうしてこの人は俺なんかと一緒にいるのだろう。

男女問わず、沢山の人が寄ってくるだろうに。

じっと顔を見つめていると、彼が身じろぎして目を覚ました。

「…おはよう刹那。どうだい?私と一緒に暮らす気になってくれたかな?」

「…それが、起きて一番に言う言葉か」

口にして、自分の声が少し涸れている事に気づく。そういえば喉も少し痛い気がする。

…思い当たる事など1つしかなく。

向こうもそれに気づいたのか小さく笑って、腕を回してきた。

「…おい」

「刹那、君は私が今どれくらい幸せかわかるかな?

 お互い色々忙しいし、会えるのは週に1回が良いところだ。

 今でも、呼び出されたらすぐに行かなくてはならない」

「…そうだな」

とっくに判っている事実だ。

最初に告白された時、惹かれながらも断ったのはそんな理由からだった。

会えない時間が多い分、自分の知らない所で他に恋人を作られるのは我慢ならない。

それならいっそ、ずっと他人でいたい、と。

「私たちにはいつだって時間が足りないんだ。

 私はそれを少しでも増やしたい。君が少しでもそう思ってくれているなら、承諾してくれないか」

「…昨夜も言ったように俺は、」

「私が君に嫌気が差すなんて事はありえないよ。

 こう見えても私は恋愛に関しては慎重なんだ。今回の事だって、ずっと考えていた」

「…でも俺は料理と言っても簡単な物しか出来ないし、掃除や洗濯だって…」

「独り暮らしが長かったせいか、家事は得意なんだ」

「…俺は、何の役にも立てない」

「…刹那が、居てくれるだけで良い」

腕に力が籠もった。

笑ってしまうほど恥ずかしい台詞に、思わず顔が火照る。

「…俺は人形じゃないんだ。一緒に居れる時間が多くなるなら、料理を教えてくれ」

「ー君の頼みならなんだって」

次々と出てくる言葉に、今度は堪えきれず笑った。