外は大雨
「いや〜ひどい雨だったな。刹那、先にシャワー浴びといで」
「…いいのか?」
「ああ。もちろん」
「…じゃあ、」
二人で出かけ、突然の大雨。グラハムの家がすぐ近くに有ると言うので走って来た。
…彼の家に来るのは初めてだ。一人暮らしにしては広い家はすっきりと片付いている。
今借りているバスルームもきちんと掃除されている。それでいて、居心地が良い家だ。
シャワーを浴びながら、思う。
『私の恋人になってくれないか』
言われたのは、グラハムとの3回目の食事の時。
嬉しくなかったと言えば嘘になる。いや、正直、嬉しかった。
グラハムは強くて、優しくて、…綺麗。
そう思っているのは俺だけでは無く、彼と歩いていると多くの人が彼に注目しているのが分かる。
中にはあからさまに色目を使ってくる女性もいた。
グラハムはもてる。
グラハムは忙しい。
もし、彼と付き合うとしても、会える時間は少ないだろう。
きっと、彼は、俺にすぐ飽きる。今は物珍しいだけ。
恋愛経験が豊富な彼が、俺みたいな男で年下のガキに満足するはずがない。きっと。そう、思う。
だから
首を横に振った。
いつか縁を切られるなら、恋人としてよりも今のままの不安定な関係の方がましだったから。
その方が…痛くない。
彼は少し寂しそうな顔で笑って
『…そうか』
と言った。
『…また会ってくれるかい?』
とも。
次に会った時も、今日も、彼はその話をしない。
…これでよかったのだ、とも、本当によかったのか、とも思う。
あんな顔は、…初めて見た。
だが、もう、すんだことだ。
シャワーを終え、グラハムが用意してくれたタオルを使い、彼の長袖のTシャツを借りる。
…だいぶ余っている。裾は腿の3分の1ぐらいまで覆っている。体格がずいぶん違うからしょうがないか…。
リビングに戻ると、彼はタオルを頭から被った状態でキッチンに立っていた。
「…シャワー、ありがとう」
「ああ。着替え、分かったか…い」
こちらを振り向いた彼の語尾が奇妙に伸びる。
「?」
「あ、いや、何でもない」小首を傾げると、慌てたように言った。
俺から目を反らし
「…ちょっと、眩しくて…」
電気か?
「…何してるんだ?」
「あ、あぁ!牛乳温めてるんだ。飲むかい?」
「…飲む」
彼はくすり、と優しく笑った。
「もうすぐできるから、座って待っててくれ」
「…ああ」
リビングのソファーは大きくて柔らかくて座り心地が良かった。
「はい。どうぞ」
「…ありがとう」
マグカップに入れてもらったホットミルクは少し甘くて
「…美味い…」
「口にあって嬉しいよ。じゃあ、私もシャワーを浴びて来るから。くつろいでくれ」
そう言い残し、グラハムは離れた。
胸に足を抱き寄せ、背もたれに体を預ける。
温かい飲み物。柔らかいソファー。
初めて来た場所なのに、なぜか、とても落ち着く…。
「…そうか、グラハムの家だからか…」
重くなるまぶたに逆らわず、目を閉じた。
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