*グラ刹「2人の出逢い」後の話です グラハムの様子がおかしい。 急に上の空になったり、何 やら考え込んだり、妙に落ち着きが無かったり。 それでも、こなして行く仕事の量は変わらない点では流石グラハム、と言ったところか。 「君、 何か有ったのか?」 昼休みの喧騒に包まれた食堂で尋ねた。 グラハムは軽く目を見開いた後、苦笑した。 「やはり、 カタギリに隠し事はできないな…」 「長い付き合いだからね。で、どうした?」 彼は伏し目がちにフォークの先で昼 食を突きながらつぶやいた。 「…昨日、野良猫に会った。」 「…は?」 …悩み事でも有るのか と思っていたのだが…。 「真っ黒で触り心地の良さそうな毛並みをしていた。くせっ毛でね」 相談にのってやらね ば、という僕の真摯な友情を返せ。 「大きな瞳は…あぁ、何色って言うんだろう?」 いや、僕に聞かれても。 「赤 みがかかった茶色?…琥珀色に近いかな」 …この男、そんなに猫が好きだったのかな? 「ずいぶん小柄で、私より頭 一つ分くらい背が低い。肩なんかも薄くてね」 …ん? 「だが、とても強いんだ。動きがしなやかで。小さい頃から何 故かよく絡まれて、それを蹴散らしていたら自然に腕っぷしが強くなった、と言っていた」 …僕の記憶が正しければ、世間一般の猫は喋ら ない。 「歳は16。…もっと幼く見える。名前は…」 「ちょっ、ちょっと待てグラハム!…猫なのか?」 「いや、人 間だ。」 ならば最初からそう言え。 「あぁ…また会えるだろうか…」 頬杖をつきつつ溜息混じりにつぶやいている。 「… 刹那…」 そっと、その人の名前を囁く姿はまるでー恋する乙女のようだった。 昔から、何かに熱中すると盲目的に追 い求めがちな男だったが、その対象が『人間』で有ることは珍しい。けれど、 だからと言って、 頬を赤らめながら コーヒーの水面を見つめるのは止めて欲しい。27の男が許される行いではない。 「会えるといいね、彼女に」 「い や、『彼』だ」 …え!? しかも、さっき16だと言ってなかったか?!! グラハムとの付き合 いは長いが、今だに彼のことは分からない。
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