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わざわと音が聞こえた。海の、潮が満ち引きする音だ。 ゆっくりと目を開けると、思った通り、そこには一面に広がる海があった。 ー どうしてこんな所に居るんだろう。 よく判らなくてきょろきょろと見回す。 自分の後ろにひっそりと建つ大きな建物 を見てわかった。 ここは、ソレスタルビーイングの地球にある基地だ。 モラリア紛争の後ロックオンに殴られ、トリ ニティとの対戦後には銃口まで向けられた場所。 そういえば他には誰もいないのだろうか。 何度も来ているとは言っ ても、一人でここで過ごしたことはなかった。 来る時は一人でも、いつの間にか増えているのだ。 耳を澄ますと、誰 かが砂を踏む音が聞こえた。 「おーい、刹那、何してんだ?」 ロックオンだ。 その向こうには アレルヤとティエリアも見える。 …なんだ、皆居るんじゃないか。 ほっとして近づいていくと、彼らがパイロット スーツを着ていないことに気付いた。 皆、シャツにズボンといったラフな格好だ。 「ロックオン、パイロットスーツ は?」 いつ出撃命令があるかわからないのに。 そう思って尋ねると、ロックオンはきょとんとした後、けらけらと笑 い出した。 なにがそんなに面白かったのか、目に涙を浮かべている。 それを拭いながら、反対の手を俺の頭に乗せ た。わしゃわしゃとかきむしられる。 「馬鹿だなぁ刹那。もうそんなの着なくていいんだぞ」 柔らかな声が響いた。 そ してその言葉がすとんと落ちる。 ーそうか、もう、そんなもの必要ないんだ。 「ロッ クオン、刹那!ご飯できてるよー!」 アレルヤが急かす。 ティエリアはもう席について、こちらの様子を窺ってい る。 「おぅ、今行く!」 ロックオンがそれに返事をして、2人の元に歩みはじめた。 着いてい きながら足元を見ると、裸足だった。 自分もパイロットスーツなど着ていない。皆と同じ、ラフな格好だ。 そうだ、 もうあれを着なくても良い。ガンダムに乗る必要も。 皆が微笑んでいる。ロックオンも、アレルヤも、ティエリアも。あんな笑顔を見るの は久しぶりかもしれない。 「どうしたの刹那。早く席につきなよ」 「冷めたら不味くなるぞ」 「ほ ら、早く食べようぜ」 「…あぁ」 足をもう一歩踏み出した。 俺 たちの戦いは終わったんだ。
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