ロッ
クオンがその棚の前で足を止めたのはほんの少しの好奇心からだった。 薄暗く怪しげな雑貨屋のレジ近く。 これほん とに食べれんのか?といわんばかりの奇妙なおかしが陳列されている、その一番端に、それはあった。 見た目はなんてことない、普通の チョコレートである。一口サイズのものが4つ小さな箱に収められている見本が置いてある。 そこまではいたって普通なのだが、その商品 の横には「今夜はコレでお楽しみ」という売り文句の書いた紙が立てかけられていた。 どうやらチョコレートの中にごく少量の媚薬が練り 込まれているらしかった。 もうすぐバレンタインということもあり、なかなか売上は好調らしい。 このチョコレート をプレゼントして、そのまま夜をいつも以上に楽しんでしまおうということか。 ロックオンの頭にはアレルヤの顔が浮かんでいた。 彼 と付き合って1年以上が経つが、一度だって彼を不満に思ったことはない。 アレルヤはいつだってやさしい。ロックオンが痛がらないよう に優しく解し、まるでじゃれあいのようなセックスだ。 それが嫌だということはもちろん無いが、ロックオンはきっとアレルヤが思ってい る以上に、色々と経験している。 痛いのは嫌いだが、激しいのは好きだ。 余裕を無くしたアレルヤに思いっきり揺さ ぶられたいとも思う。 ーアレルヤがどんなふうに変化するのか、見てみたい。 そう思ったが最後、買わずにはいられ なかった。 そ の小さな箱は今、ロックオンの手に握られている。 食事の後僕の部屋に来て下さい、とアレルヤに言われて、向かっている最中なのだ。 誘 う時の、少し照れたように言う彼の仕草にはいまだに慣れない。 バレンタインの贈り物をくれるだろうことは簡単に想像がつくのに、なぜ かこちらまでどぎまぎしてしまうのだ。 「アレルヤ、入っていいか?」 声を掛けるとすぐ扉が開いてアレルヤが顔を だした。黒い薄手のタンクトップにズボン、足は裸足で、冬だというのにひどく薄着である。 「どうぞ、入って下さい」 「… そんな恰好で、風邪ひくぞ」 招き入れられた時、アレルヤからふわりとシャンプーのにおいが漂った。シャワーを浴びていたのか。 そ れで薄着ね、と納得しても世話を焼くのを止められない。 「もう一枚着てきます。座って待っててください」 ロック オンらしい言葉に苦笑して、アレルヤはクローゼットを開けた。 言われたとおりに椅子に腰かける。 机の上には、二 人分の紅茶の用意と小さな包み。 あ、と思わず声を漏らすと片袖だけ通したアレルヤがロックオンを振り返った。 「あ… えっと…、食べ物じゃないんだけど…バレンタイン、の、贈り物です」 慌ててもう片方の袖も通してこちらに飛んできたアレルヤが、その 包みをずいっとこちらに突き出してきた。 照れくさそうに笑っている。あぁどうしてこいつはいつまでもこんなに初々しいんだ。 あ りがとう、と言って受け取った後、ロックオンは手に持っている箱を渡すかどうか一瞬本気で迷った。 なんの躊躇いもなく買ったというの に、こんなものを渡していいのか、という思いに駆られたのである。 いつまでも可愛らしいコイツに、少量とはいえ媚薬入りのチョコレー トなんか。 けれどこれ以外は何も用意していない。せっかくのバレンタインデーに一緒に居れて、こんな贈り物までもらっておきながら自 分は何もなし、というのはあんまりじゃないのか。 「あの、ロックオン?」 「あ……悪い。えーっと、じゃあ、こ れ、俺から…」 「わぁ!開けていいですか?」 「あ、あぁ…」 結局渡してしまった。 そ の上、そんなにもきらきらした目で言われると、益々罪悪感が生まれる。 アレルヤが箱の周りの包装紙をはがしはじめたので、ロックオン もアレルヤからもらった包みを解いた。 出てきたのは写真立てだった。 「あ、この間、クルーのみんなで写真撮った でしょう?飾っときたいって言ってたから…ひょっとして、要らなかった?」 「そんなことねぇよ。ありがとう」 こ こに来た頃のアレルヤはまったく誰にも関心がなかったというのに、なぜか最近は何かと他のクルーのことを気に掛けるようになっていた。 写 真立ても、そんな気持ちの変化からくるものだろう。 良い傾向だ、とロックオンは思っているが、ティエリアあたりからは余計な事を、と 言われそうだ。 「わぁ、チョコレート!」 箱を開けたアレルヤが歓声を上げた。だから、そんなに嬉しそうにされる と罪悪感が沸くって。 「僕も一度チョコレート売り場に行ったんですけど、やっぱり女性が多くて。よく買えましたね」 「まぁ な…」 まさか怪しい雑貨屋で買ったとは言えまい。 喜々として食べようとするアレルヤから何となく目を背けなが ら、ロックオンはこの先のことを少しだけ期待していた。 罪悪感云々などとは言っても、本来の目的を忘れたわけではない。 し かし、口に入れる直前でアレルヤは何かを思い出したのか、「あ」と言って席を立った。 「そういえば、リヒティからももらったんです」 「え? 何を?」 「さぁ…ロックオンと2人で開けてくれ、って言われたんですけど。これ」 出てきたのはそんなに大きくな い、細長い包みだった。 「なんでしょうね。開けてみましょうか」 「あぁ…」 そんなことどう でも良いからチョコ食べてくれよ、というのがロックオンの本音だったがしかし、出てきたものを見て仰天した。 (…おいおい、うそだ ろ) パッケージにでかでかと印字されている文字を認識してアレルヤも目を丸くしている。 それは、ローションだっ た。それも、バレンタインだからなのか、チョコレートの匂いづけがされているというもの。 おいおいおいおい。 嫌 な汗をかいてしまう。 自分たちの関係をクルーにバラしたことはない。 でもリヒティからこれが贈られてくるってこ とはバレちまってるってことか?どうなんだ? きっとそうなんだろうな、と半分諦めて溜息をつくと、アレルヤが遠慮がちに口を開いた。 「……… えーっと……せっかくだから、使ってみますか?」 「な…っ?!ばか、おまえ…………!」 「………ですよね……」 「あー いや………別に……」 しないつもりで来たわけじゃなくて、むしろするつもりで来たのは来たんだけどな。 ーなんて ことは言えず、ロックオンは赤面して俯いた。とっても気まずい雰囲気だ。 なんでアレルヤと居るとこう、どぎまぎしてしまうんだろう か。 「ロックオン」 これは全てアレルヤが可愛らしいのがいけないのだ、とよく分からない納得の仕方をした所で名 前を呼ばれて顔を上げると、唇に温かい感触。 軽い口付けはすぐ離れたが、不意を突かれたこともあって、文句を言いたくなる。 「…… おい」 「ごめんなさい。だって、可愛かったから。つい」 「可愛い……ってな……」 可愛いの はお前だよ。 と、言おうとしたところでまたアレルヤが唇を合わせてきた。 今度は角度を変えて何度か口づける。 「……… ん………っは、」 「……ねぇ、あれは使いませんから。しましょう?」 「……うん……」 そん な可愛い顔で言われて断れる訳ないだろ。 そう言われて真っ赤になったアレルヤにもう一度口づけながら、ロックオンは考えた。 ー チョコ、食ってくんねぇかな。 「…… あッ……ん…、アレルヤ………っ」 首の弱い所を繰り返し攻められてロックオンは悶えた。 くすぐったい。だけど気 持ち良い。 早く色んな所を触ってほしくて気持ちが焦ってしまう。 「気持ち良い?ロックオン……」 「…… ん………、はや、く………っ」 耳元で囁かれて腰が浮く。好きな奴にされて気持ちよくないわけがないだろ。 良いか ら早くしてくれ、とねだったところでアレルヤの動きが止まった。 「うん……あ、」 「……なに?なんだよ」 「ご めん、ぼく……ロックオンからもらったチョコ食べてない」 「ーはぁ?」 こんな時に何言ってんだ。 そ りゃ食べてほしかったけど今はもうどっちでも良い。 続き、と思ってるのにあっさりアレルヤは離れてしまう。 ベッ ドのそばにある机の上に置きっぱなしだった箱を開いてアレルヤは一つ口の中に放り込んだ。 思わず凝視してしまう。変な味がしたらどう しよう。 だから「おいしいね」と答えたアレルヤにほっとした。中に入ってる媚薬の効果が表れるのは一体いつ頃なんだろう。なんてこと を考えていたとき、アレルヤが驚くべき行動にでた。 「はい、ロックオン」 「……え?」 気づ くと口元にあのチョコレートがあった。今、アレルヤの口の中に入ったものと同じ形をしている。 これを食えっていうのか。 と んでもない、と思うが、アレルヤは好意でやっているのだ。 「…食べないの?」 「いや、俺は……」 「チョ コ、嫌いじゃないでしょ?」 「………」 このチョコの中に何が入っているか、なにも知らないきょとんとした目で見 られれば、断れない。 もうどうにでもなれ、と薄く口を開けた。すぐチョコが押し込まれる。 味は確かに普通であ る。変な味はしない。 しかし次の瞬間、強いお酒を飲んだ時のような喉が焼けるような感覚が沸き上がった。 鼓動が 急に早くなる。喉がカラカラだ。 チョコの所為だというのか。 ロックオンは酷く狼狽した。こんなに即効性があるも のだとは思ってなかったのだ。どうしてアレルヤが平然としているのか訳が分からない。 目眩がする。本当にお酒に酔ってしまったみたい だ。 「………アレルヤ………」 「どうかした?……ぅんっ」 目の前にあった唇にしゃぶりつい た。深く舌を絡めるとチョコの味がした。 しばらくして、カタン、と音がしたあとアレルヤの手がロックオン後頭部に回った。驚いたアレ ルヤがチョコの箱を落としてしまったようだ。 きっと床に散らばってる。もう散らばらせておけばいい。 「ど…どう したの……?」 ロックオンの呼吸が浅いのはキスの所為じゃない。 アレルヤの問いかけには答えず、アレルヤの服を めくってたくましい胸に舌を這わせた。 「ちょっ……ロッ…クオン?」 「はやく………、触ってくれよ…」 上 目づかいで見上げると、アレルヤが息を呑むのが分かった。 ゆっくりと押し倒されて上の服を脱がされる。 「アッ」 ア レルヤの手が胸を掠った時、体中に電流が走った。自分でも驚くほど声が出る。 「やっ………アッ、」 触られるとこ ろ全て感じる。おかしくなってしまったみたいだ。 どうしよう。手で口を覆っても何の役にも立たない。本当にどうしてアレルヤは平気な んだ。 アレルヤはいつものように優しく触ってくれるが、それがじれったくて仕方ない。 「ア…アレ、ルヤ………っ も、いいから……」 乳首をやさしく吸われて腰が揺れる。触られても居ないのに前がパンパンだ。 このままでは胸だ けでもイッてしまいそうだ。明らかに自分の体はどうかしている。 これが全てあのチョコレートの所為だなんて。なんて恐ろしい食べ物な のだろう。 「ひっ…ン、ッ……はやく…っ」 脱がせて、挿れて、イカせてくれ。 伝えるとアレ ルヤは真っ赤になった。あぁだめだ。どうしようもなく可愛い。興奮する。 我慢できずに手を伸ばして前をくつろげる。完全に勃起したも のが出てくると、アレルヤが驚いたように目を見開いた。 そのまま自分のものを扱く。恥ずかしさなんてこの際もうどうでも良かった。む しろアレルヤに見られていると思うと余計止まらなくなった。 「あ、ぁッ……アー……ッ!」 びゅっと勢いよく、白 濁のものが飛び出した。 ひとしきり出してしまうと、浅い息の中でロックオンはようやく体の疼きが落ち着いてくるのを感じた。 ク リアになった視界でアレルヤを見ると、彼はまだ驚いたような顔をしている。 「……なんだよ」 「いえ、あの……今 日、なんだか、すごいですね。……すごく、いやらしい」 そりゃ、お前がチョコなんて食べさすからだよ、と言ってしまいそうになった 時、膝の辺りでひっかかっていたズボンとパンツを下までぐいっと下された。 アレルヤの指がすぅっと奥のすぼみをなぞる。全身が粟立っ た。 「ン、ぁッ……アレルヤ、…」 「…やっぱり、使ってみましょうか」 「え……?」 何 を?と聞く前にべりっと何かを剥がすような音が聞こえた。 頭だけ起してぎょっとする。アレルヤがリヒティからもらった物の周りについ ていたビニールをはがしていたのだ。 「効果は普通のものと一緒でしょう?大丈夫ですよ」 それは、確かにそうなの だが。 「ほんとだ、チョコレート」 ほら、と言って見せられたのは甘いにおいのする茶色くどろっとしたもの。 見 た目は溶けてしまったチョコレート。だけどそれ、今から俺の中に入るんだろ。 なんとなく嫌な気分を拭えないまま、それでも嫌だと言え ずにアレルヤの手が後ろに伸びるのを黙って見る。 「ん………ッ」 「………なんだか、すごくおいしそう」 「はぁ?! 何言って、んだ……ッア……!」 ぬる、という生暖かい感触が襲って身体が震える。 アレルヤの頭が潜っていた。 「ちょ……ッ! どこ、舐めて………アッ、ア」 「だって、すごくおいしそうだから……」 「ばかッ……、あぁっ、ン、ア」 「勃っ てるね、…気持ち良い?」 足の間から顔を覗かせたアレルヤが、見せつけるようにロックオンの性器を手と口で弄んだ。 そ のまま舌をずらして今度は蕾をちろちろと舐める。 達するに至らない刺激でも、ビクビクと体が跳ねるのを止められない。早く欲しくて仕 方がない。 「アレルヤ……アレルヤ………ッ」 「うん……わかったよ、ロックオン……」 アレ ルヤがゆっくりと自身を取り出すのをじれったい気持ちで眺めた。 中を慣らすのを忘れていたことを思い出したのはアレルヤの先が潜り込 んだときだ。 「いッ……ってぇ……」 「あっ!ご、ごめん…!ぼく、夢中になっちゃって……!」 リ ヒティにもらったものはアレルヤが綺麗に舐めとってしまって全く意味を成していなかったのだ。 その後はもう散々だった。 痛 かったでしょう、と一回抜かれてまた犬のようにちろちろとそこを舐められた。 もう良いから入れてくれ、と懇願してようやく繋がった後 もやたらと顔中を舐めまわされて、その感覚に酔った。 結局、アレルヤには言うほど媚薬の効果は見られず、自分ばかりが乱れるという始 末。 なぜ、という疑問が払拭されるのは、翌朝のことだった。 朝、 目を覚ますと辺りはひどい有様だった。 シーツは色んなもので汚れてかぴかぴになっているし(よくここで寝れたものだ)、床にも服やら チョコレートやらが散らばっている。 身体だけはアレルヤが拭いてくれたらしく違和感はないが、それでも腰のだるさだけは残っていた。 横 に眠るアレルヤを起こさないようになんとか身体を起して、とりあえず床に散らばったものを片付けよう、と眼についたローションを憎々しい思いで拾い上げ た。 大きな注意書きが目に留まったのはその時。 『これは食べ物ではありません。誤って口に入れないでください』 誤っ て口に入れないでください? 後ろの口に入れるのは大丈夫だったのに?という疑問はさておき、ロックオンは手に持っている物とアレルヤ とを見比べて青くなった。 コイツ、昨夜思いっきり舐めてたぞ、これ。 「アレルヤ、」 呼びか けるとアレルヤはすぐ目を開けた。ロックオンの顔を認識してへらっと笑う顔の前にローションを突き付ける。 「お前、大丈夫なのか?」 「へ? あぁ……これ」 手に取って注意書きを読んだあと、アレルヤはきょとんとした顔で「大丈夫でしょう」と言う。 「え、 だって…こんなでっかく書いてあるのに……」 どこか体の調子はおかしくないか心配しているというのに。 「僕、人 より体が随分丈夫なんです。変なもの食べたって調子が悪くなることはめったに無いし、お酒だってあんまり酔わないんだ」 「そ…う、な のか。あー……だからお前、チョコ……」 媚薬も効かなかったのか、と言いかけて口が滑ったことに気づく。 「え?」 「い や、なんでもねぇ」 今回のことは黙っておこう、と思うと同時に、もう二度とこんなことはしまい、とロックオンは心に決めたのだった。
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