ア レルヤが熱をだしていた。らしい。
らしい、と言うのはそんなこと少しも知らなかったからだ。
ソレスタルビーイン グの仕事で宇宙に行っていて、数週間ぶりに家に帰ると鍵は開いているくせに部屋が薄暗く、不審に思った。
もしや鍵をかけずに出かけた のでは、と思ったところでパジャマ姿でソファーに寝ているアレルヤを発見したのだ。
休日とはいえまだ寝る時間ではない。普段きちんとしている アレルヤがパジャマでソファに寝ていることなど、まずない。
「おい、アレルヤ」
肩を叩いて声をかけるともぞもぞ と寝返りを打って目を開けた。
「おかえりなさい」という声が明らかに力無い。寝起きというだけでなく。しかも心なしか顔が火照って目 も潤んでいる。
「どうした。体調悪いのか?」
「…ごめんなさい、帰ってくると思って向こうから移動してきたんだ けど、そのまま寝ちゃってた」
ちゃんと質問に答えろコラ。
向こう、と言うのは寝室のことだろう。少しくらいの体 調不良なら特に休まず治してしまう体力の持ち主なので、本格的に寝なければいけないのは相当だろうと思う。
「体調悪いならベッドで寝 てろよ。俺のことは気にしなくていいから」
「えっ…でも、仕事で疲れてるでしょ?」
「気にすんなって、ほら、 さっさと行け」
名残惜しそうにちらちらとこちらを見るアレルヤが寝室へ消えたのを確認してから、小さくため息をついた。
正 直、数週間ぶりの再会に少し期待をしていた。どうせまたしばらく仕事はないのだ。ゆっくりできるなと思っていたのに肩すかしをくらった気分である。
も ちろん、風邪をひいているのであれば、一人にしておくよりも自分が帰ってきて良かったと思うべきだろう。
(けど、なぁ…)
い やまぁいい。とりあえずは荷物を片付けてアレルヤの看病をしなくては。
気を取り直して俺は荷物の片付けに取り掛かったのだった。







荷 物を片付けてシャワーを浴びて、寝室の扉を開けたのは1時間後のことである。
ダイニングから椅子と濡れタオルを持ってきてアレルヤの 様子をうかがう。
病人の看病なんて何年ぶりにするかわからない。家族を失ってから、そんな相手は居なかった。
そ ういえば自分が熱を出したのももう何年も前かもしれない。
どうするんだっけ、と思ってとりあえずタオルをアレルヤの額にのせてみた。
冷 たさに反応してかアレルヤがゆっくりと目を開ける。
「…ロックオン…」
「ん?どうした?」
頼 りなさげな声が聞こえたので顔を覗きこんでやると、アレルヤは照れくさそうに笑った。
そしてこちらに手をのばして頬を撫で、「ずっと 会いたいと思ってました」などと言うから驚いてしまう。
「なんだ、大げさなやつだな」
「だって、会いたいと思う のにあなたは夢にだって出てきてくれない」
「そん…」
ーなの、俺が知るか。
言いかけた所で それまで優しく頬を撫でていた手が頭の後ろに回って引き寄せられた。
「うわっ」
ガタン、と座っていた椅子が音を 立てる。
不意を突かれたのもあってそのまま重力に従うと、目の前にアレルヤの首があった。
頭だけアレルヤに抱え られてる。椅子から反射的に立ち上がってしまったので、結構辛い体勢だ。腰が痛い。
「アレルヤ!」
この体勢をな んとかしたいと思うのに、頭を抱える腕はびくともしない。なんだこいつ。病人って、もっと弱々しいもんなんじゃないのか。
ていうか、 アレルヤに触れてる部分がいつもより熱い。熱と、数週間逢えなかったせいか?
(うわぁ)
一度意識するとなかなか 元には戻らない。明らかに自分の鼓動が速い。体勢の所為もあるが、なんだか落ち着かない。触れている部分が少ないのでアレルヤには気付かれていないと思う けれど。
「ーロックオン」
至近距離で名前を呼ばれてますます焦ってしまう。
「病人のうわ言 だと思ってくださいね」
「え、何。何が」
なぜかどきりとして尋ねてみれば、アレルヤが笑ったような気配がして、 同時に頭を抱える腕に力が込められた。
「…やっぱり、いい」
「なんだよ気になるだろ」
「ー ねぇ、そんなことより…」
「おい、話逸らすなよ」
今度こそ明らかにアレルヤが笑ってむっとする。腕がゆるめられ たので体を起して見下ろした。
やはり熱はあるらしい。火照っている頬にそっと手を添わすと、アレルヤの手も重ねられた。
い つもより熱い体温が手を伝って流れ込む。
心地よさを感じて、唐突にあぁキスしてぇなと思った時、アレルヤが口を開いた。
「今 晩一緒に寝てくれませんか。ひとりだと、心細くて」
「…いいぜ」
頬に触れていた手を取られて、誘われるままに ベッドにもぐりこむ。
アレルヤがこうして弱い部分を見せてくれるのは嬉しい。なんだかんだ言いつついつも何かと宥められてばかりだか らだ。
最初に会った時と比べてアレルヤは確かに大人になった。大人になったがそのアレルヤにいつも甘えていて良いのだろうかと言うの は常々思う疑問である。
けれどこうしてたまに甘えてくれるのなら、と思ったが、先ほどと同じように頭を抱え込むようにして抱きしめら れれば結局のところこれはどうのだろう。
まぁいっか、と思ってアレルヤの腕の中で小さく伸びをした。
剥き出しの 首筋に唇を寄せる。軽く吸うとくすぐったそうにアレルヤが笑って「幸せだ」と呟いた。