forever and a
day (side A)
Even if you never awake...
あれは、ロックオンたちがトレミーに戻ってきた日の夜だった。
当たり前みたいに僕らは同じ部屋で一時を過ごし、このまま朝までとベッドの中で寄り添って、互いの体温を感じていた。
「アレルヤ」
不意にロックオンが僕の名前を呼んだ。少し微睡んでいた意識の中で「はい」と返事をすると、「眠いのか」と言う優しい声。
「…平気です」
「そうか?」
「話ならちゃんと聞きますよ」
「いや…」
少しバツの悪そうな顔で視線を逸らされた。何となくピンと来る。
「地球で何があったんですか?」
一気に視線が戻された。どうやら当たっていたらしい。
無理にとは言いませんよ、と続けると、ロックオンは小さくため息を吐いて少しずつ話し始めた。
ロックオンの家族が殺されたテロの組織に直接関わってはいないが刹那が所属していたこと。それを知って刹那に銃口を向けたこと。でも結局撃てなかったこと。
撃たなくて良かったとは思うけれど、撃とうとしたことは後悔してない。
「結果論だけど、今回の事で刹那がちょっと心を開いてくれた気がする。だから、良かった」
最後にそう締めくくって、ロックオンは眠そうに欠伸をした。
「もう寝ましょうか」
「うん。…なぁ、アレルヤ」
枕元にある電気のスイッチに伸ばした腕を止める。
「はい」
「刹那も、ティエリアも、いい奴だな」
「…そうだね」
「これからどんどん俺たちの絆が必要になる。…もっと、信頼しあえたら良いな」
彼が誰よりも仲間を思っていることは知っていた。
ー誰が悪いわけではない。
アレルヤはそう自分に言い聞かす。
ロックオンは進んでティエリアを庇ったし、庇われたヴァーチェはシステムエラーだった。
だから、誰も悪くない。
そうして、2日が経った。
傷は深く、大した設備の無いここで頼りになるのはロックオンの体力と生命力だけだ。
彼の意識は未だにはっきりとはせず、一日中荒い息を繰り返している。
一人欠けた状態で何が出来るというわけではなく、待機命令を受けたアレルヤは、ずっとロックオンに付き添っていた。
(今日は、ロックオンの誕生日なのに)
以前教えてもらった、わかりやすい数字。
これを知っているのは自分だけなのだという優越感を味わっていたのが、遠い昔のようだ。
前日に比べると、その日のロックオンの様子は幾分ましだった。
呼吸は穏やかで、けれどそれでもところどころに見られる包帯や傷の跡は痛々しい。
青白い顔を見ながら、アレルヤは手の中の物をぎゅうと握った。
それは、ロックオンへの誕生日プレゼントだった。
買ったのは数週間前の休暇の時。
何も要らないと言うのは分かっていた。だから、聞く前に自分で選んだ。
余計なことだろうか。けれど、ロックオンは喜んでくれるだろうと思ったのだ。
手のひらに乗り切るサイズの化粧箱。何が入っているかは、それを開けなくてもわかるはずだ。
もしかしたら仕事の邪魔になるかもしれないと、首から下げられるチェーンも買ってきていたのに。
「…早く、良くなってください」
箱を開けて中身を取り出す。
サイズは実はよくわからなかった。けれど多分、はまるはずだ。
布団の中から、ロックオンの左手をとった。
「ロックオン」
返事はない。彼は眠っている。
「誕生日おめでとう」
おずおずと薬指に通すと、それは予想通りぴったりとはまった。
意識が戻ったとき、彼はこの指輪に気づくに違いない。
自分からだと察して、何を思うだろうか。
ーアレルヤ。
彼の声が聞こえた気がした。
ー俺が居なくなっても俺を愛せるか。
「…ロックオン」
最初から分かっているのだ。
遅かれ早かれ、別れは必ずやってくる。自分たちに幸せな未来などないことも。
だけど、ちゃんとした形が欲しかった。
自分たちを繋ぐ、確かに存在する物が。
「ロックオン、」
指輪をはめた手を握り締めて、祈るように呟いた。
「愛してます、貴方だけを」
たとえ貴方が目覚めなくても。
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