止む様子のない口付けに戸惑ったのはロックオンの方だった。

部屋の明かりを付けるまもなく始まったそれは、これから始まる行為を想像させるに値するもので、

自然と鼓動が速くなった。

唇が痺れるほど熱い。暗がりの中、薄く開いた目には何も見えず、

感じるのはキスを交わすアレルヤの気配と、背中にある壁だけ。

なんか、もうまずいかもしれない。

引き離そうか、引き寄せようか悩む。

こうなるつもりで部屋に誘ったのはロックオンであるのに、彼はアレルヤの行動に大層戸惑っていた。

これまで一度だって、アレルヤから仕掛けたられた事がなかったからだ。

年下だからなのか、アレルヤはいつでもロックオンに忠実だった。

駄目だと言われればしないし、来いと言われれば行く。

ロックオンも、アレルヤが自分に好意を持っていることに気づいていたから、

自分の了解なしにはコイツは何もしないのだろうと勝手に思っていた。

(思い違いか)

とはいえ、アレルヤのペースに乗せられるのは嫌だった。

どうしてかと聞かれれば、自分が年上だからと答えるしかないのだけれど。

何とか元のペースに戻さねば、とロックオンは結局アレルヤを引き離す行動に出た。

暗がりに少し慣れた目が一瞬見たものは、それはアレルヤの笑み。

え、と思ったと同時に先ほどまで自分のそれを塞いでいた口は首筋へと滑った。

「…ちょ、アレルヤ、」

舐められると背筋がゾクゾクとして自然と腰が浮く。

一瞬、アレルヤにこすれて、慌ててまたその腰を引いた。

やっぱり、まずいかもしれない。

何がまずいのか、それはロックオンには分からなかった。

けれどここで流されてしまえば、そのまま自分そのものが持って行かれるような、

言いようもない恐怖があった。

自分はいつだってアレルヤの一歩先を行っていたはずだ。

それなのに。

「…はぁ、」

首筋に口付けたままシャツの中を弄る手が胸に触れて、思わず息が漏れる。

「……気持ちいいですか?」

耳元で囁かれて、顔がかっと熱くなった。

気持ちいい。けれど、当然まだ足りない。

それを満たす方法を知っているその手は、しばらく胸を弄ってもその下に行こうとはしない。

(…焦らされてる)

これじゃ一人でしてた方がマシだ、とロックオンは胸の内で呟く。

(あぁ、でも、)

肌を滑る手。耳元に掛かる息。

ーたまらない。

「アレルヤ、」

「…なんですか?」

腰を浮かせてアレルヤに押し付ける。

「…早く」

「…何をですか?」

言ってくれなきゃわかりませんよ。

耳元でアレルヤが楽しそうに笑う。

くそ。

コイツは、本当は。

良いように乗せられてたのは自分だったのだ。

「……触ってくれ…」

悔しさはあるけれども、快楽を追いたい誘惑に負けて懇願する。

慣れた手つきでベルトを緩められ、一気に膝あたりまで下げられた。

「−すごいですね。いつもと全然違う」

それはお前がいつもと違うからだ。

言いたいことは言葉にならず、全て意味を成さない声へと変わってゆく。

「ぁっ…アレルヤぁ…」

「−ロックオン、手を伸ばして」

「ぇ?」

「…あなたばかりずるいですよ」

言われるがままロックオンは手をのばしてアレルヤに触れた。

否、触れようとした。

だが、自分に与えられる快感でいっぱいいっぱいになり、どうしても手は止まってしまう。

じれったくなったアレルヤがロックオンの腰を引き寄せ2人分こすりあげた。

「ぅんんっ…!」

膝がガタガタする。もう立って居られない。

反射的にアレルヤに抱きついたロックオンは、その背中に爪をたてた。

「ッ…いたい、です、ロックオン…」

「ごめ…ぁ、アレルヤっ…もう…」

「…いいですよ、どうぞ」

「は、ぁーッ!」

アレルヤが言うと同時にロックオンの身体が大きく跳ね、白濁を飛ばす。

それをいくらか受けた手が、今度は後ろへと持っていかれた。

敏感な身体がまたもやびくんと跳ねる。

ゆっくり床に押し倒されて、そして少しの圧迫感。

アレルヤの表情はよく見えないが、先ほどの笑みはもうないのではないかと思う。

「…もう、良いですか…?」

「あっ…まだ、痛っ…」

「……すみません、僕がもう、」

「ぇ、アレ…っあぁぁぁ!」

痛いなんてもんじゃない。

あまりの苦痛に意識が飛びそうになった。

いつもは、いままではこんなのじゃ。

今日何度目かわからない事をもう一度思う。

それでももう止まらなくて腕を伸ばして口付けを請うた。

息もつかない中で舌を絡ませて…そして、その後は、もう覚えてはいない。





目を覚ますと真夜中で、シャワーを浴びる音が聞こえた。

アレルヤが入っているらしい。

ロックオンの身体は丁寧に拭かれて、服まで着せられてベッドに寝かされていた。

記憶が飛び飛びではっきりしない。

けれど頭の中で何かが弾けたような、そんな感覚は未だ残っていた。

(知らなかったな)

アレルヤが積極的になると、あんなにも。

思い出してロックオンは一人で赤面した。

そして間の悪いことにシャワーを終えたアレルヤが再び部屋に入ってきた。

上の服を着ていない、その身体に目が釘付けになる。

「…起きてましたか」

「あぁ…」

どこか後ろめたさを感じて顔を背けると、アレルヤはロックオンに掛けてあった毛布を優しく掛けなおして、言った。

「こっちを見てください、ロックオン」

「…嫌だ」

「見てください」

「無理だ」

「どうして」

「…」

「あなたは僕をどう思ってるんですか」

「え、」

思わずアレルヤを見る。

彼はどこか寂しそうな、悲しそうな顔をしてロックオンを見つめていた。

(どう思ってるって、そんな)

ここまでしておいて、答えなんて一つしかないだろ。

それでも答えられずに、ロックオンは口を結んだままだった。

途端に、普段は口数の少ないアレルヤが饒舌になる。

「ずっと聞こうと思っていました。これは僕の独りよがりなんでしょうか?

 僕はあなたか好きです。…好きだから、あなたもそうあってほしいと思います。そうだと思ってしまうんです」

「…アレルヤ、」

「教えてください。答えを聞かずにこの関係を続けるのは辛い」

「…」

「あなたは、僕が好きですか?」

アレルヤの手が優しく頬をなでる。

彼の必死な思いに、ロックオンは胸打たれた。

そして今日一日で、自分の知らなかったことを一気に知ってしまったことに気づく。

アレルヤにこんなにも好かれていて、自分も。

「……好きだ」

消え入るような声でそう伝えた、と、同時にアレルヤが覆いかぶさってくる。

深い、けれど優しいキス。

すぐに離れたアレルヤは愛しげにロックオンを見つめて「もう一度言ってください」と微笑む。

「好きだ」

「もう一度、」

「好きだよ、アレルヤ」

「…僕も、好きです」

きつく抱きしめられる。あやすように髪をなでると、後ろから鼻をすする音が聞こえた。

「泣いてるのか?」

「…すみません。あまりにも、嬉しくて」

やっと、あなたに伝えてもらった。

そう呟くアレルヤに、あぁ自分も泣きそうだと思う。

だんだんと夜が更けていく中、二人はしばらくそうして抱き合っていた。