シュ、とドアの開く音でアレルヤは目を覚ました。 常に鍵を掛けている部屋に入れるのは、自分と、そのナンバーを教えた人物しかいない。 「…ロックオン?」 枕元のランプのスイッチを押すと、僅かばかり部屋が明るくなり、 その人物の姿が少しだけ浮かび上がった。 「あぁ」 聞き慣れた声で返事が聞こえて、同時に鍵を掛けたことを知らせる電子音が鳴った。 ーこんな時間にどうしたのだろう。 合同軍事演習への武力介入から丸一日。 助けてもらった相手が誰なのかよく分からないまま宇宙にあがって、 そのまま解散となった。 話し合うべきことは沢山あったが、今はとにかく身体を休めることが先だ。 15時間を越える戦闘にマイスターたちの身体は悲鳴を上げていた。 アレルヤも同様、部屋に帰るとすぐに眠りについたのだ。 …それからどのくらい経っただろう。 周りの静けさからしてまだ夜だとは思うが、身体はいくらか楽になっている。 ロックオンはてくてくとアレルヤの方へ向かい、ベッドに腰掛けて言った。 「なぁ、なんでティエリアたちと地球に降りなかったんだ?」 一瞬何を言われているのか分からなかった。 あの長い戦闘の後では、それ以前のことが遠く思えたのだ。 ちょっと考え事を、なんて言ったら彼を傷つけてしまうだろうか。 本当のことなのだけれど。 少し迷った挙句、アレルヤは質問に答えない選択をした。 「…寂しかったですか?」 「あぁ」 てっきり否定されると思った質問にあっさりと答えられて驚く。 本当にどうしたんだろう。 ふ、とロックオンの手がアレルヤの頬に触れる。 見ると、彼は悲しいような、怒っているような、複雑な顔をしていた。 「…頭痛は治まったか?」 「ご心配お掛けしました」 「全くだ」 彼は相変わらず頬を撫でている。 そんなことじゃない、とアレルヤは思った。 何か、もっと違うことが言いたいのだと分かるほどには、二人の付き合いは深いものになっていた。 どうしたらいいものか、とロックオンの手に自らのそれを重ねる。 一瞬、彼の瞳が揺らいだのが見えた。 「…実はな、ちょっと、駄目かもと思った」 今回の戦闘のことを言っているのだ。 それはアレルヤも同じだった。 自分があの人革のパイロットに影響を受けるとわかった上での作戦。 他のマイスターたちがどんな戦闘をしていたのか分からないが、 話し振りからして、恐らく彼も危うかったのだろう。 「お前は人革に連れて行かれるし」 「…すみません」 「…」 「ロックオン?」 「…もう、二度とお前に会えないのかと、」 みるみるうちに彼の目に涙が溜まる。 頬を伝うそれを、慌てて指で拭うと、きつく抱きしめられた。 そうなのか、この人は。 自分は生まれてから、失うものなど持ったことがない。 けれどこの人は違うのだ。きっと、過去に何か大切なものを。 「悪い、みっともないよな」 背中ごしに小さな声が聞こえた。 「いえ、そんな」 とは言ってみたものの、アレルヤは正直戸惑っていた。 いつも年少者の面倒をみている彼が、今日はまるで子供のようだ。 そしてそんな彼にいつも甘やかされている自分が、今日は、彼を慰めねばならない。 一人で生きてきたアレルヤは、誰かに慰められる経験も、慰める経験も少なかった。 涙を流す人に、どうやって接すればいいのか、よくわからない。 けれど今泣いているのは自分の愛する人なのだ。 アレルヤはロックオンの背を撫で、精一杯の想いで言った。 「…大丈夫です。あなたも僕も、ちゃんとここに居ます。ちゃんと…居ます」 どうしてこうも上手く伝えられないのだろう。 もどかしさを感じながらもなんとか口にすると、ロックオンはアレルヤから身体を離した。 目を覗き込むように見つめられる。彼はもう、泣いてはいなかった。 「−アレルヤ?」 「はい」 「アレルヤ」 「なんですか?」 「−まずい」 「はい?…んっ…」 深く唇を重ねられる。 よく考えてみると、キスをするのは久しぶりだった。 キスだけじゃない。こうして、触れるのも、触れられるのも。 合流ポイントで落ち合ってそのままミッションに入ったため、必要最低限の会話しかしていない。 ーここにロックオンが居る。 先ほど自分が言ったことを今度は別の意味で捉えてしまい、顔が熱くなった。 彼も同じことを思っているらしい。 手がズボンをまさぐって焦る。 「ちょっ…ロックオン、」 「−気持ちよくしてやるから」 悪戯っぽい笑みを浮かべ、ロックオンは慣れた手つきでくつろげさせた。 少し反応しているアレルヤのそれを口に含むと、ねっとりと舐めあげる。 寝る前にシャワーは浴びたけれど、でも、そんな。 どこか申し訳ないような気さえして、けれどその昂ぶりを押さえつけることは出来なかった。 ちろ、と舐められて少し歯を立てられるともう駄目だった。 「ロックオン、くち、離してくださ…!」 言い終わるまで耐え切れなかった。 あっという間に達してしまった自分に呆れてしまう。 久しぶりとはいえ、余裕のない部分をみられるのは、少し格好がつかない気がした。 ロックオンは全く気にしないふうで全て飲み込むと「まずい」と顔をしかめた。 「あ、当たり前です…」 第一飲むものじゃない。 そう言いかけて言葉をなくしたのは、ロックオンがアレルヤを押し倒したからだ。 そうして自分も下半身だけ曝け出すと、萎える様子のないアレルヤの上に腰を下ろそうとしている。 ー無茶だ。慣らしてもないのに入るわけがない。 「んぁっ、あ、あ…!」 やはり無理があるらしい。半分ほどの所で息をついている。 そんなに急ぐ必要もないのに、と思いながらアレルヤはただその光景を見上げていた。 気持ちいい。けれど、ロックオンに無理はさせたくない。 「無理ですよ、もうちょっとゆっくり、」 「だいじょうぶ、だ…ッ」 何をそんなにせっついているのか。 呼吸を乱しながらそれでもなんとか全てを収めた彼はそれだけで疲れきっているようだった。 彼自身もいつの間にかそそり立っていて、先走りで濡れている。 「あの…ロックオン…、ぅ、ん」 アレルヤが何か言う前にロックオンは腰を揺らした。 たまらない快楽に、アレルヤはまた持って行かれそうになる。 さすがにそれはいけない。ロックオンはまだ一度だっていってないのに。 気にするなと言われそうだが、それはある意味プライドの問題だ。 「あっ……アレ、ルヤぁ…」 「は、い…」 「はぁっ、あ、触って…さわ…ひぁ、ぁぁぁッ!」 「…ロックオン…っ」 触れるか触れないかの所でロックオンは上り詰め、 そしてアレルヤもその中に欲を吐き出した。 倒れこんだロックオンをしっかりと受け止め、肩で息をしている彼に謝罪する。 「すみません、あの、僕そのまま…」 「いい…いいんだ」 「…ロックオン?」 やはり、今日の彼はどこか様子がおかしい。 そう思ってたずねると、彼は息を整えながら、ゆっくりと話し出した。 「…休暇だったんだ」 「えぇ、知ってます」 「それで、時間はあったんだけど、お前は居ないし…で、ちょっと、我慢できなくてな、」 そういう店に行ったのだそうだ。 嫌だとは思わないが、アレルヤは単純に驚いた。 普段はそんなに求めて来ないのに、そんなことを思うのか。 確かにしばらく会っていないし、地球に降りていればいくらでも誘惑はある。 流されても、おかしくはないのだ。 「…女の人だったんですか?」 うん、と頷いて、ロックオンは苦笑した。 「それが、全然満足できなくて」 …それって、つまり、 「お前じゃなきゃ駄目なんだよなぁ」 言われた途端にかっと顔が赤くなるのを感じた。 そんなことを言われるなんて、思ってもみなかった。 固まっているアレルヤに、ロックオンはけたけたと笑う。 「可愛いなぁ」 ちゅ、と音をたててキスをされた。 「−好きだぜ、アレルヤ。俺を満たしてくれるのはお前だけだ」 至近距離で見つめられて、またもや照れてしまう。 僕もです、そう言おうとするのに上手く言葉が紡げない。 そんなアレルヤをみてロックオンはまたけたけたと笑い、キスをする。 額に、瞼に、鼻に、頬に。 最後、ロックオンが唇に触れる前にアレルヤは彼の頭を引き寄せた。 深い深いキスの中で、アレルヤが腰を揺らす。 まだ繋がっていた部分が音を立てて、耐え切れず口を離したロックオンに、アレルヤが囁く。 「愛してます」
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