ロックオンと喧嘩をしてしまった。

いや、実際には喧嘩と言うほどのものではない。こちらが一方的に食ってかかったのだ。

「そんなに刹那が好きですか?」

馬鹿な事を言っているのは判っていた。子供っぽい嫉妬だと言うことも。

「…お前、何言ってるんだ」

ロックオンは一瞬ぽかんとした後、心底呆れた様子でため息をついた。

「だいたい、刹那にはだな、」

「そういうことじゃないんです」

「じゃあどういう事だよ。くだらないやり取りなら繰り返さないぞ」

彼は大人だ。十分判っていたことに改めて気づかされてそれが余計アレルヤを躍起にさせた。

「あなたは刹那をどう思ってるんですか?」

「…さっきから何馬鹿なこと…同僚だよ。それ以上でも以下でもない」

「本当に?」

「…いい加減にしろよ。そんなに俺を疑いたいなら勝手にしろ」

そう言って、ロックオンは部屋を出ていってしまった。

後ろ姿を追うことも出来ない。

判っているのだ。彼は一番年下である刹那を可愛がって世話を焼いている、ただそれだけだということは。



けれど、たまに無性に不安になる。

愛された記憶が無いものは、愛し方を知らないのだ。



「僕はあなたの恋人でいる資格があるんでしょうか」



答えのない問いが部屋の中にぽつりと響いた。







アレルヤがロックオンの部屋を訪れたのはそれからしばらくしてからの事だった。

「入っても良いですか?」

「あぁ」

中から聞こえたのはそっけない声。

やっぱり怒ってるのかなと思いながら部屋に入ると、机に向かっていた彼がこちらを振り返った。

仕事をしていたのか。

「すみません、邪魔しましたか?」

「いや、後で良い。…何か飲むか」

「いえ、あの…さっきはすみませんでした」

気にしてない、と言いながらコーヒーメーカーのスイッチを入れる。

(…いいって言ったのに)

アレルヤはすぐに出ていくつもりだった。

あんなくだらないことで嫉妬するような汚い気持ちを持っている自分がここに居ること自体、申し訳ない気持ちがしたのだ。



恋や愛とは、もっと綺麗なものだ。



カップを出そうとしている彼を静止して、顔を真正面から見つめる。

ーあなたはこんなに綺麗なのに。

「…キスしてください」

ロックオンの唇が触れた時、アレルヤは胸の奥がドクンと強く鳴ったのを感じた。

何度となく、ロックオンに触れる度感じていた痛みだ。

彼のことを想うと嬉しくなり、同時に切なくなる。彼に触れると泣きたくなる。

今までこれが恋なのだと思っていた。



けれど、本当は違うのかもしれない。



うっすらと目を開けると、同じように目を開いていた彼と視線がぶつかった。

嬉しそうに笑う彼を見て、途端にこの人の全てを手に入れたいと思う。



こんな汚い気持ちも恋と呼ぶなら、それを幸せだというのは何故。



「ロックオン、」



あなたは、僕でなくても大丈夫でしょう?



こんな汚い僕でなくても、



「ー別れてください」





僕は、愛し方を知らないから。